記憶を記録に『日本の鳥獣戯画とメソアメリカ文明の神獣』 =動物のリアルな動きと古代文明の中の神格表現=

2021.5.15.ETS

 

2021年4月、東京・上野の東京国立博物館で、京都・高山寺蔵の平安~鎌倉時代に描かれた国宝絵巻『鳥獣戯画』の展覧会が開催された。

私は、今回の特別展にコロナ禍の関係で見に行く機会がなかったが、朝日新聞紙上に記載された記事と、その『戯画』を見て、面白い発想をした。

それは、日本のその戯画の中の動物の動きを見て、メキシコ・中米の『メソアメリカ文明』の中の神々として登場する神話の中の動物と比較して見たのである。

戯画の中で、動物が演じる場面の『筋書きははっきりしない』と新聞で解説されているが、私はこれを見て勝手に想像したのが、上に述べた『メソアメリカ文明の中の動物の神々』である。

メソアメリカとは、メキシコ南部のユカタン半島地域を中心に中央アメリカまで、紀元前のオルメカ文明からマヤ文明、そして高原のトルテカ、テオティワカン、アステカの各文明のことである。これらの文明で登場する鳥獣は、神話、伝説の中で多義にわたり、また、文明の中で、数多く登場する神々と合わせて語られている。

 

1.日本の鳥獣戯画に登場する動物の表情:

 

この戯画は『絵巻』となっているが動物の表情をいろいろな場面で検証するのも興味深い観賞の仕方と見ることもできるのでは。また、様々な動物が登場するが、順に観察してみると、ウサギ、カエル、キツネ,サル,シカ、イノシシ、ミミズクなど、次々にいろいろな仕草を見せてくれる。そのそれぞれの仕草が面白い。その動物の組み合わせが芝居を演ずるところに興味を惹かれるのである。

はじめのところでは、サルが川のほとりで仲間の背中を流している場面で、ウサギが柄杓で水をかけている。この急流では、ウサギとサルが流されて、ウサギがシカに助けられているような場面で、ウサギがシカを馬のごとく扱って、もう一羽のウサギが、これを御していて、その姿を一匹のサルが眺めている。(馬に乗る姿勢であるが、この動物に斑点があるので。シカであろう)

次に,蓮の葉で的を作り、その横で的を見ているキツネとウサギの姿がある。その先には弓と矢を用意している五羽のウサギの姿があり、その横に、同じく弓と矢を用意している五匹のカエルがいる。これは、ウサギとカエルの弓矢の競技が想像され、そのそばで,一羽の弓を持ったウサギは扇を持っていることから、応援団ではないか。

続いて,二羽のウサギ、四足の台の様なものをかついで来る。これに続いて一匹のカエルと一羽のウサギが壺の様なものを担いで続き、さらに一羽のウサギと一匹のカエルが籠の中に何かのものが入ったようなものを担いで続く。その横には一羽のウサギが付き添っている。

そして、三味線を持った一羽のウサギ、何か貢物を頭に乗せた一匹のキツネらしきものが続き、最後に木の枝を持った一羽のウサギが来る。これらは、『ウサギ対カエルの弓矢の競技』の対抗試合の行列ではないか。

次の場面に移ると,正装をしたサルの前に一羽のウサギがシカを引いてきて進呈する姿で、つづいて、一匹のカエルが一頭のイノシシを引いて、これを二羽のウサギがこれを助けて正装のサルの方へ向かおうとしている。

これらを衣で頭を隠して、二匹のキツネと思しき動物が見ていて、このおわりにキツネの衣装を手に持った一羽のウサギと一匹のキツネが続いている。そして、丘の向こうからは、一匹のサルが三匹のカエルと一羽のウサギが追いかけてくる。

その後方では、面白い情景が見られる。それは、大きな腹を突き出した一匹のカエルを木の枝を持った一羽のウサギと、もう二羽のウサギ、ひらひらの飾りのついた棒を持った一匹のカエル、さらに被り物を被った女キツネ、扇を持ったキツネ,子キツネとキツネの家族のような姿がある。

また、この図の中には、一羽のウサギの足元にネズミ、烏帽子を被った、一匹のカエルと烏帽子を被ったネコが登場する。そして、それをはやし立てるように布きれをもって踊るカエルと蓮の葉を被っておちゃらけるカエルが居り、さらにそれを笑って眺めているような帽子をかぶったサルとその足元に子キツネと衣服をまとったキツネと、もう一つ、服を着たがん{雁}かワシ{鷲}のような姿がある。

次の図は、『ウサギとカエルの相撲競技』の場面で、カエルがウサギを背後から羽交い絞めにしているところを,二羽のウサギが、がんばれ、がんばれと応援して、その直後に、カエルが見事に、ウサギを投げ飛ばす場面で、これを三匹のカエルが腹を抱えて笑っている場面である。

つづいて、大きな木陰に輿を置いて、その上に蓮の葉を敷いた上で、大あぐらをかく一匹のカエル(多分、森の統領か?)に傅く、一匹のサルの僧と思われる者が、大きな声を上げて、祈りをささげているような姿、その背後から、叫び声をあげているような一匹のキツネと扇をかざす一羽のウサギ、さらに、その後ろには烏帽子を被ったウサギ、手に数珠をもって帽子をかぶったキツネ、カエル、飾った木の枝を持って、手拍子を打つサル、肩に貢物を担ぐ一匹と、手に貢物をもって駆けつける二匹のサルが登場する。

これを木の上からじっと眺めているミミズク(フクロウ)が登場。おわりの図では、一匹のサルが僧侶の様な僧服を纏って輿に座り、そこへ貢物をもって駆けつける動物の姿があり、一番先には大きな西瓜と思われる貢物を持ったウサギ、続いて、烏帽子を被って獣の皮を持ったウサギと、それに従う飾り棒をもったカエルと烏帽子を被って敷物を持って従うカエルの姿がある。

このように興味のある図が描かれているが、祭り上げられているのはカエルとサルの様な気がする。

 

2.戯画への登場動物と日本の神話・民話:

 

登場戯画の前半は、ウサギ、サル、カエルを中心として、弓矢を競ったり、川の急流をシカに乗って渡るなど、獣のたわむれる躍動感が描かれている。そして、シカやイノシシは従者の立場で縄でつながれたり、乗られたりして描かれている。

また、おわりの図になると『祭祀』の様な情景が描かれているが、これは、地方の代官的な発想か、具体的には、一段高い台座の上に蓮の葉を飾って、そこに大きなカエルが胡坐をかいており、その下の段に花を飾り、一番下の場所には茣蓙が敷かれて、その上に祭司のような衣をまとったサルが座り、何か祝詞をあげている姿がある。さらに、その後ろの席には

ウサギとキツネが楽器を奏でており、それを数匹の動物が囲んでいる。さらに後ろの方の図には、山の上に一匹のサルが、衣を着て正装で座り、その前に大きな袋とじんじゃ色々なくだものをのせた台が置かれた貢物と思われ、このサルに向かって、先ず、ウサギが西瓜の様な貢物をもって近づく姿と、次いでカエルが飾りの枝を持ち、その後に、蓆をもって従う、烏帽子を}被ったカエルが描かれている。このおわりの方の図は、神格化まではいかないが、その土地の『代官的役割』を務めるカエルとサルの姿を想像できるのではないかと考えたのである。

また、それは神獣による祭祀ではないのか、さらに日本の社会の神社に祭られている動物の姿を検証したい気持ちになって、日本の神話・民話とともに『神社』について調べてみた。

 

日本の神社;

 

(A)ウサギを祭った神社:

『光兎神社』(こううさぎじんじゃ)は新潟県岩船郡関川村宮前に存在する。関川村の女川沿いの小さな神社で,鳥居の横に、大きなウサギの植木、屋根の上にはウサギの紋章,賽銭箱の奥には、金に輝くウサギの左右像、これは『光兎大神』(こうさぎおおかみ)と『月読尊』(つきよみのみこと)をお祀りしている。

昔の人は、一日の前半は太陽神『天照大神』が治めて、後半は『月読尊』が治めると信じていた。そして、月にはウサギが住んでいて、ウサギは月の使者と考えられ、『光兎大神』と『月読尊』をお祭りしている大兎神社は”兎の神の使い”と言われる。神社の御朱印には

越後美山・光兎山『大兎神社』と書かれている。(全国にはウサギを祭った神社があるが、サギの名がつくところは少ないと言われる)

 

 

(B)カエルを祭った神社:

埼玉県富士見市の『水宮神社』は”神の使い“とされるカエル{蛙)が祭られている。普通、神社の入り口には『狛犬』が祭られているが、この神社は『狛蛙』(こまかえる)がおり、右側が“阿”{あ}、左側が“吽”(うん)の狛蛙となっている。古代インド語の吐く息と吸う息からきていると言われる。

 

 

 

 

 

(C)サル{猿}の神獣がいる、東京赤坂の日枝神:

通常の社寺だと、阿吽像が迎えてくれるが、ここでは『サルの武将』が日枝神社として出迎えてくれる。社殿へ進むと、両脇にサルの神獣が鎮座している。江戸山王の源は、古く鎌倉初期、館山山王社をつくり、太田道灌が江戸城内鎮安神と尊宗し、さらに徳川家康の江戸入府に際して、将軍家の産土神と崇め、社殿を造営,神鎮を寄進した。その祭礼,山王祭は日本の三大祭りの一つとされた。そして、明治元年、東京遷都とともに官幣大社となった。

猿目神は古事記にも出てくる、有名な神様で『みちびきの神、みちびらきの神』として“物事をいい方向に導く神様”と言われている。

猿はもともと『神様と人間の間を取り持つ存在』として、昔から敬われる存在で、山の守り神として呼ばれる猿が重宝がられている。日枝神社は,滋賀県にある日吉大社の神様をお祀りしていて、日吉大社に鎮座している比叡山には多くの猿が住んでいて、その猿が神様の使いとされてきた。

 

 

(D)赤坂の豊川稲荷のキツネ{狐}:

豊川稲荷は神社ではなく、曹洞宗の寺院で、豊川ダギニシン天様をお祀りしている。

『ダキニ』とはインドの女神に由来する。これは魂を喰らうという恐ろしい意味。

ところが、日本に入ってきてからのダキニ天は仏教の教えを受け入れて、心を改め,良い神(善神)となった。ダキニ天は空海が呼び寄せたと言われており、『白いキツネ(狐)に乗っている』と言われ、日本に入ってきた後に『稲荷神のお使い狐』と同一視されて混同が始まったとされる。

一方,神がいなくなったお寺にキツネだけが住みついて、人間の置くお供え物を持って行ってしまったと、このミステリアスな現象をキツネたちのいたずら、気まぐれに、むしろ御利益を見た人間たちが、いつしか『キツネ自身を神とする信仰』を生み出したとも。

 

 

日本の神話・伝説;

 

(A)神話『因幡の白兎』:

白兎が,因幡の国へ渡ろうと考え,隠岐の島のウサギがサメをだまして、同族の多さを比べようとサメに呼びかけ,サメを因幡の国の気多崎まで並ばせた。その上を踏み数えながら渡った白兎は、正に計画が成功した時、”お前たちは騙された“と言ったばかりに、白兎は皮をはがされてしまう。これを大国様が,蒲の穂綿にくるまれば治ると教えて、ウサギは改心してそのとおりにすると、ウサギはもとの白兎に戻ったという神話である。

 

(B)カエル{蛙}神話・伝説:

縄文土器に描かれているカエルは、月に住むヒキガエル。イノシシとカエルの競争.蛙については、現在、両生類の中でも、もっとも繁栄しているのが、カエル類と言われ,幼生はオタマジャクシで、水中で生活し、姿かたちも生活様式も、著しく変化させて成体となる。

目が大きく愛嬌があり、カエルの大合唱は日本の夏の風物詩である。

 

(C)奈良の春日大社のシカ(鹿):

そのルーツは奈良時代、710年(和銅3年)にタケミカズチノミコ様が御藍山〔春日山〕の山頂に降り立った際に『白鹿』に乗ってやってきたという神話を起源とするとされている。

一方、奈良時代の万葉集で自然に詠われているように、奈良時代のシカは、まだ、『神鹿』として扱いを受けていなかった。シカが神の使いとして知られるようになったのは、平安時代に春日大社を実質的に司る藤原一族をはじめ、多数の貴族は『春日詣で』をステータスとしたことによるとされている。

以来、奈良のシカは神聖な動物とされ、もし、シカを殺めれば死罪になったと言われており、落語の『鹿政談』の中でも、特に、斑点のある鹿は“ハナシカ”といって大切にされた。従って、『ハナシカ(噺家)は大事にしろ』と言われているとも。

 

 

3.メソアメリカ文明における神獣:

 

メキシコを中心として中央アメリカの一部で発展した『メソアメリカ文明』の中で、オルメカ、トルテカ,テオテェワカン、マヤ、アステカの各文明を考察してみて、今回、日本の国宝『鳥獣戯画』の中で、双方の鳥獣の位置付け、その鳥獣の動き、戯れの中における神格化などの価値観などについて洞察してみることにしたい。

 

(A)ジャガー神/スペイン語では、ハグアル(Jaguar):

紀元前3000年ごろにメキシコ南部に発祥したオルメカ文明はジャングルに巨石人頭石の彫刻を残した。このジャングルの中で、一番強い存在が、ジャガーで、これが先住民の最初の神獣ではないかと言われる。

これが石彫の形で各地に残されているが、ジャガー神が先住民の祭祀、崇拝の的となるとともに、人間との合体のように描かれていく、すなわち、人間の石像であるが、口には牙が、手足には鋭い爪が彫られている。また、別の図では古代の球戯(ペロータ)の競技者をジャガーが捕まえている石彫が登場する。(イラスト参照)

 

(B)ウサギ神:

マヤ文明・古典期に登場する女神の碑文に、ウサギを抱いて三日月に乗った若い女性の姿が描かれている。古代アジア人と同様に、マヤ人も月面にウサギの姿を見ている。(イラスト参照)

また、マヤ‣後古典期の図像の中にモチーフとして使われていた。それはウサギが猟獣としての価値の高さからではないか。さらに高原のトルテカ文明の祭祀ではウサギはリュウゼツランの葉を原料とする発酵酒プルケとリュウゼツランの女神マヤウエルと関連付けられている。イラストの図『ボルジア絵文書』に描かれている古典伝承によれば、スペインの征服までのマヤの人々は文字表記の知識をもっていた書記を尊敬し,書記の守護神を崇めた。書記の職務は石に王様の業績と日付を記述し、絵文書に神話や予言の文書を書くことであった。

 

 

イラストのウサギが文字を書いている図は、8世紀の彩色土器に描かれた『ウサギ神』でジャガーの皮で装丁された絵文書に絵筆を使って文字を書いているウサギ神で、『サル』{猿}も文字の守護神とされていた。

また、スペイン人が征服したアステカ文明には、260日の暦『トナルポワリ』の仕組みがあった。これは20個の日にちの名前が『鳥獣や花』などで描かれ、この円を『13の数字』に順番に組み合わされていて、アステカ王・モクテスマ2世の即位の石には、今の時代が始まった神話上の日付として『1のウサギ』が刻まれている。

 

 

(C)サル{猿}は神と人間の間を仲介する存在、また、文字の守護神とも:

マヤ文明のキチェ族の古事記には、『サルは人間に似ている』。猿は,あの時代に創造された人間がつくった人形にすぎない人間の見本』とも記されている。

この古事記は『ポポル・ヴフ』と言われているものでスペイン人が征服したのちに、キチェ族の首都、チチカステナンゴ{グアテマラ}で発見されて、スペイン語に訳され、それが日本語に林屋永吉先生が訳された書物である。

この書物によると、最初、神様が人間を泥でつくられたが、洪水で流されて溶けてしまった。

その後、トウモロコシから作ったと言われている。そのときに猿は、神と人間を取り持つ位置付けとされていた。このポポル・ヴフの絵の図には、人間の生活の中に様々な動物が描かれており、それはジャガー、ピューマ、シカ、ウサギ、ネズミ,鳥が登場している。

また、広口鉢の土器には、書記の守護神としての『クモザル』が描かれているものがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(D)鳥獣が神々と、丸木舟に乗って旅をする図:

グアテマラのマヤ文明のペテン州ティカル遺跡から出土した骨に彫刻された図では、『丸木舟をこぐ神々と共に旅をする動物』が描かれている。この図は、先頭に神、あるいは神官と思われる人物が、後ろにもおり、その間に、イグアナ、サル、イノシシ、オウム、シカが乗って旅をする図が描かれている。これは、『戯画的神話』であるが、何を意味するものかは不明である。

 

(E)マヤ・チョンタル族の民話:

メキシコ南部、太平洋側に住む、特色のある,チョンタル族の民話に、『女狐』を詠った民話がある。

それを紹介すると;

ソーラ(Zorra:女狐)ソーラと呼ばれる、一匹の動物がいた。

昔、むかし、ソーラに太陽がおしゃべりをした。

ソーラが、思ったことを太陽に話した。

アーイ、神よ、神よ

感情と強さを下され

すべての動物たちの意欲のために。

だが、神は知っていた。

その感情が、悪く、悪くなっていくのを で、

こう言った(与えよう)

全ての動物たちが、お前を恐れるように、

しかし、力は与えない。

それは、今も残っている。

もし、女狐を見たら、恐れなさい。

見ないようにするのです。

 

別の詩で,カーレ{キツツキ)の詩では、カーレが木を強くたたいて、怖い鳴き声を上げたら、悪い知らせだから気おつけなさい、と言った民話もある。

 

 

4.アステカ文明、テオティワカン文明、チチェンイッツァ文明における『羽の生えた蛇』ケッツァルコアトル/ククルカンの神の信仰:

 

スペイン語: Quetzalcóatl ;ケツァルコアトル 出典:Wikipedia

 

ケッツァール(Quetzal)鳥は、中央アメリカのジャングルに棲息する、羽が玉虫色に輝く『聖鳥』といわれ、マヤ民族をはじめ、崇められる存在で,王様の飾り羽としてもアステカ王の被り物に象徴とされた。

一方、これを『ケッツァルコアトル神』として崇められたトルテカ文明の王様は、これを自らの名前とした。また、テオティワカン文明では『テオティワカン』が神の宿るところと言う意味から、そこには様々な神が祭られており、ケッツァルコアトルのピラミッドも祭られている。

アステカ神話の農耕神であり、風の神とも考えられたケツアルカトル出典:Wikipedia

 

トルテカ文明では、ケッツァルコアトル神は、高原の地を追放されて、987年に東の海へ去ったという伝説がある。これがユカタン半島のマヤ文明に渡って、『トルテカ・マヤ文明』と言われ,チツエン・イッツァの遺跡には、トルテカ文明のツーラのピラッミトと合体したようなピラミットが存在する。このピラミットの横の“カスティーヨ”と言われる美しいピラミットの階段の手すりの一番下にはケッツァルコアトルの石彫が彫られていて、春分と秋分の日には天から神が下りてくる姿が見られる。

 

 

 

 

ケツァルコアトルは、ユカタン半島のマヤ語では、ククルカンで、ククルが羽、カンが蛇の意味である。

おわりに:

 

今回、日本の国宝『鳥獣戯画展』に注目して、そこに描かれた鳥獣の祀られている位置付けについて、メキシコを中心に発展した『メソアメリカ文明』の中の鳥獣の位置付けを比較することを試みてみた。

日本の鳥獣戯画に描かれている動物は、主に、ウサギ、カエル、サルが中心をなし、その様々な動作と仕草が興味深く描かれている中で、ウサギ、カエル、サルの位置付けは、ウサギがシカに乗ったり、カエルがイノシシを引っ張ってきたりして、これは家畜的従者としてシカとイノシシが描かれている。

そして、終わりの方になると、カエルが一段高いところで蓮の葉の上に載って胡坐をかき、この王様的位置付けに対して、ウサギやサルが供物を備えて贖っている姿が描かれていて、それを横で見ているのがキツネの姿である。

さらに、終わりの図では、今度はサルが偉そうに正装で、山の上に座り、これをウサギとカエルが貢物や敷物をもってきて飾り付けをする姿が描かれている。この日本の戯画では、最終的にはカエルとサルが祀られているようである。しかし、これは地域の『代官的役割』という位置付けか。

一方、メソアメリカ文明の中に登場するウサギは、ユカタン半島を中心として発展した中で、絵文字を書きしるした『書紀の神』“ウサギ神”として、マヤ文明の中で位置付けられている。これはグアテマラ、ペテン地方北部で出土した円筒形土器に描かれている。

また、サルはマヤ文明のキチェ族の古事記『ポポルヴフ』の記述では、人間に一番近い位置付けとして、人間との間に神の使いと考えられていた。

カエルに関しては、パナマ地峡の古代人にとっては黄色いカエルの存在から”守り神“とされている。また、シカは狩猟民にとっては、”神聖な動物“とされていて、これは土器に描かれている。

さらに、日本でウサギは『月の中のウサギの存在』(餅をついている)という言い伝えがあるが、マヤ文明の中にも、同じウサギの存在が描かれているという共通の認識があり、メキシコ高原のアステカ文明では、『暦』の20の絵文字の中にウサギが出てくる。特にモクテスマ王の即位記述に『1のウサギ』と記されている。

メソアメリカ文明の一番の『神獣』とされているのはハグアル、すなわち、ジャガーであり、蛇に羽の生えた“ケツァルコアトル(マヤ語では、ククルカン)”であった。これも石彫などで描かれている。

日本の戯画の様なウサギ、カエル、サルなどの動作を示すものの一つとしては、興味ある絵として、グアテマラのティカル遺跡出土の『丸木舟に神々と旅をする動物』が描かれているものがあり、この動物は、イグアナ.サル、イノシシ、オウム、シカが乗り合わせている。

日本の戯画の中にキツネが登場する。

日本では、稲荷神社に、主に商売繁盛の神様として祭ってある。マヤ文明のメキシコ南部のチョンタル族の民話の中に、『女狐』(Zorra)という話がある。この一部分では、『もし、女狐を見かけたら、恐れなさい、そして、見ないようにするのです』と言う一節が出てくる。怖い存在のようだ。

日本の歌謡曲の中に、『夜の銀狐』(Zorra Gris de la Noche)というヒット曲がある。この銀狐も、日本の夜の怖い存在かも?

このように、日本とメソアメリカ、両者の神話・民話を比較して見ると、古代の人々の動物(鳥獣)の神格化の共通点、相違点を興味深く、考察することができた。

エンリケ設楽 

 

 

<参考文献・資料>

1.朝日新聞、2021年4月6日{火}朝刊、国宝『鳥獣戯画の全て』

2.『ポポル・ヴフ』マヤ文明の古代文書(Popol Vuh)レシーノス、原訳校正、林屋永吉訳本、(株)中央公論社、1972.3.10.

3。『マヤ文明』ブロード・ポ―デ・シドニー・ピカソ、落合一泰、1993.1.20.

4、アステカ文明展、朝日新聞社、S49.4月、小田急グランド・ギャラリー

5、『アステカ文明』リチャード・F・タウンゼンド、増田義郎、創元社 ,2004.8.10.

6、『The Maya』1966、Michael D.Core,Thames And Hudson             

7、意外過ぎる新シリーズ『新しいマヤ文学』が実現するまで、国書刊行会、2020.4.3.、編訳、吉田栄人、東北大学・大学院

8、『古代マヤ文明』マイケル・D・ユウ、加藤泰造、長谷川悦夫、創元社、2007.6.20.

9、『チョンタルの詩』メキシコ・インディオ古謡、荻田、政之助、高野太郎編訳 誠文堂新光社、1981.11.1.

10.講義『中南米地域研究』設楽知靖著、DTP出版、2008.7.28.

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